樹の梢から、春の柔らかな陽が洩れている。
今日から僕も大学生か…。
大学のキャンパス内は、本当に東京かと疑いたくなるほど緑にあふれている。そんな環境が好きで、この大学を選んだのだが。
校舎も中世ヨーロッパをイメージしたような、独特の雰囲気が漂っていて、創設者のこだわりを感じる建物だ。
今日からここに通うんだ。と改めて実感が湧いてきた。
期待と不安、そして少し寂しさも感じながら校舎をくぐる。
今日からもう講義がある。事前に講義室は調べておいたのに、いろんな所を見て回っている内に迷ってしまったらしい。
「まずいな。」
今、10時、5分前。講義は10時から。
初日から遅刻なんて…。途方に暮れていると、後ろから声をかけられた。
「山岡教授の講義は、別館2階の突き当たりですよ。」
透き通った優しい声だった。振り向くと、温かい陽射しに包まれながら、誰かが立っていた。顔は眩しくて見えなかったけど、きっときれいだろう。そんな予感がした。
「ありがとう。」
顔の見えない女の人にお礼を言って、講義室へ向かう。
10時ぴったり。教授はまだ来ていない。
「間に合った…。」
ふうっとため息をついて席に座る。
それにしても、どうしてあの子は僕が取ってる講義がわかったんだろう?
顔はわからないけど、あんな所にいたんだから、この大学の子だよな。会ったら、またお礼を言おう。
そんな事を考えていたら、
「なあ、お前、俺と友達になんねぇ?」
と、いきなり横から話かけられた。
何だ?いきなり。と思って横を見ると、茶髪の男が、めちゃくちゃマジな顔で僕の顔を覗き込んでいる。
あまりにも、深刻な顔だったから、どうすればいいのかわからなくなってしまった。
困っているのが、そのまま顔にでていたのだろうか。男は笑った。
馬鹿にしたような笑いではなく、人なつっこさが全面に出た笑い方だった。そして、
「よかった。シカトされるかと思った。」
とその人なつっこい笑みのまま言った。
「あんな事を、あんなにマジな顔で言われたらシカトできないな。」
「そうか?」
「ああ。俺はね。」
男は、
「ふーん、そういうもんか。」と、一人言のように言った後、再び僕の方を見た。