宗劉は、伊織姫の目を真っ直ぐに見つめると、「実は…私が東宮の座を追放されたとき、この月乃以上に私に力を貸してくれた方がいたのだ。…姫、貴女の父上だ。」と告げました。
伊織姫は思わず「え…?」と何かを言いかけましたが、宗劉はそれを制して、話を続けました。
「…貴女の父上は、私が無実の罪で右大臣に追放されたと知り、その後すぐに私を家に迎え入れてくれた。だが、ただ家に迎え入れただけでは、いずれ右大臣家にバレて刺客が送り込まれてくる…。そう考えた貴女の父上は、私を女装させ、当時容姿のせいで滅多に出歩くことのなかった貴女の従女ということにして、私を命の危険から遠ざけてくれた…──そうして時が熟すまで、私を匿ってくれたのだ。そう…正直に言って、貴女は私の隠れ蓑的存在に過ぎなかった。」
するとうつむいて話を聞いていた帝が突然、「では兄上のあの姫に対する告白は…嘘だったのですか!?姫に恋した私への当て付けだったのですか!?それに…本当は姫の事なんて、貴方は美しいとも何とも思っていないんじゃないのですか!?だってそうでしょう!?貴方にとって姫は所詮隠れ蓑に過ぎなかったのだから!」と叫び、兄を睨みつけました。
それを聞いた宗劉は、「…今はその話をしている場合ではない。言を慎めと言っただろう、劉嘉よ。」と、冷たく響く声で言い放ったのでした…。