この白い雪は殺意をもっている。殺意を以て今この僕に、正にたたきつけられている。
そう信じるに足る現実を認識した時には、僕の意識はまぶたの裏を彩る火花とともに、根こそぎ刈り取られていた。
その雪玉には、間違いなく「石」が込められていた。
「マジでトロすぎんじゃね?アンタさー。正面から投げてやったのに、顔面には食らわないっしょフツー」
人にケガさせておいて、全く悪びれることもなく、むしろ鼻で笑うくらいの勢い。灯(あかり)はそんなヤツだった。
気絶した僕をアパートの部屋まで運んで、布団までひいてくれた様だが、当然感謝の念など涌かない。
「だいたい篤樹(あつき)は仕事中もぼーっとしてるしさ。」
まぁ事実だが、それは特に責任感のあるでもない一介のフリーターとしては、まぁしようがないんじゃないかと僕は思う。
灯はその点、仕事にはひたむきだ。同じ時給なのに、よくやるよ。
「ぼーっとしてて悪かったな、大体がいきなり雪玉を投げてくるなんて予測つかんわー!」
「や、そこはホレ。…有事を想定しての突発的な訓練ってコトで」
「石を入れる必然性は」
「日常の小事にも危険があるってコトで」
人為的にやったら、日常の小事じゃないだろ。