浅岡への気持ちを自覚はしたが、僕は何も出来ないだろう。
このハンカチだけが、僕と浅岡を繋いでいる。
これを返してしまえば、また元のように普通の教師と生徒の関係だ。
「何やってんだか…。」
もう26歳だというのに、8歳も年下のしかも生徒に片思いなんて。
そういえば、片思いなんて高校以来だな。
仰向けにソファに寝そべったままタバコを吹かす。
大学に入ってすぐに沢子に告白されて付き合い始めた。
沢子には、こんな気持ちになった事なかったもんな…。
冷めていると言われても、仕方が無かったのかもしれない。
でも、それでも僕は僕なりに沢子を大切に思っていたし、必要としていた。
「何でだよ、隆…。」
高校の時から、少しも変わらない人の良さそうな笑顔を思い出す。
こんな時、いつもなら真っ先に隆に相談していたのに。
今はもう、連絡すら出来ない。
「未練がましいな…。」
そう自嘲気味に呟くと、一人の部屋がいっそう惨めに感じられた。