カーテンを開け放つと、窓の外にどこまでも青い空が広がっていた。
早春の澄んだ空気を体いっぱいに感じながら、私は愛犬フレディを散歩に連れ出した。
「愛ちゃん、おはよ!」
「小島さん、お早ようございまぁす。 いい天気ですね〜」
ジョギングのおじさんや、部活の高校生達がひっきりなしに挨拶をよこす。
私は、久し振りの散歩にはしゃぐフレディに引きずられながらいちいち返事をしていた。
川沿いの土手に差し掛かった辺りでフレディが吠え始め、グンッ!とリードを引っ張っていく。
「あン、…も〜、いい子だから大人しくしてよ〜」
“んごぉー…、ZZZ…”
「え、誰か寝てる…?」
いびきの音源は土手の斜面のようだった。
それにしても、実に豪快ないびき……。
「フレディ、駄目よ! 起こしちゃ悪いでしょ?」
「クゥーン…」
叱られてしょぼんとなったフレディの背後から、人影がヒョイと顔を覗かせた。
「ウ〜ッ、ワンワンッ!!」
急に吠えだして人影に飛び掛かるフレディ。
リードのストラップを手首にかけていた私は、大きく態勢を崩した。
「きゃあっ!」
「おっと危ない!」
「ちょっとおーっ、あなたどこ触ってんのよっ!!」
転倒しかけた私の、…事もあろうに胸をフニッと掴んで支えた人物は、とぼけた調子で話しかけてくる。
「いや、危なかったね、推定80-Bのお嬢さん」
「あたし82のCよ!!!」
「何だって?」
「あ、ヤダ……」
思わず憤然と言い返した後、カァッと顔に血が昇ってきた。
「そりゃ、失敬…。
あっちの世界は女の子少ないからなー‥」
妙な言い回しをした男は、良く見ると一風変わった身なりをしている。
「あっち…?」
「ん?幻界の事さ」
男は至極当然といった態度でそう言った。