「…お前はじきに死ぬ……憐れな奴よ………ワシに出来るのは、お前さんを彼の悪名高き邪神の眠りし塔………紺碧の塔………そこへ導くことくらいじゃ………」
ジリリリリーン!!
やかましい目覚ましの音が、淡い朝日の射し込む小部屋に鳴り響く。
もぞもぞとベットの中から、いかにもだらしない半裸の男が姿を現した。
「…って、二日酔い…」
男は金髪がかった頭を右手で抱え、空いた方の左手で目覚ましを思いっきり叩いた。鈍い音がして、目覚ましは黙った。
「…ァン、もぅ朝ぁ?」
男の隣から、茶髪の華奢な女が、ぼやけた瞳を擦りながら這い出てきた。女は全裸のようだ。
「あぁ〜、ダリィなぁ!今日はバイトだ。まだ寝たりねぇ、イタタタ…」
「大変だね、剛留はぁ。だぁ〜い好きだぉチュチュ♪」 女は二日酔いと寝不足で意識が朦朧としている男(剛留)に、優しく跨って、頬に接吻をした。
「ったく、酒臭ぇ女臭ぇ、酒池肉林やね君」
バスケ部の仲間で、同じコンビニのバイトの弘毅が白い目で言った。
「放っとけ。そんなこと言ってっと例のモノやらねぇぞ」
「え!マジで!?真緒ちゃんのも手に入ったの!!OH〜YOU ARE GOD!!♪」
弘毅の目の色が突然変わって、下に出始めた。剛留は左手でレジの奥を指差した。
「あぁ、ばっちり撮れてるはずだぜ。真緒の一人エッチ」
「お前という奴は…、でも憧れの真緒ちゃんはすでに剛留によって汚されているんだ」
「黙れ」
剛留は軽い笑みを浮かべて、弘毅の額にデコピンを叩き込んだ。
「じゃ、先に帰るぜ。恩にきる!」
弘毅がいやらしくも満面の笑顔でコンビニから走り去った。しっかりと、例のビデオカメラを鞄に入れて。
「…バッカ」
剛留は情けないといった表情で、弘毅の走り去る後ろ姿を眺めていた。
そろそろ自分も彼女の家に帰ろうとした時、携帯電話が小刻に震えた。
母だった。
「元気?夏休みになってから家に帰らないわね。今日麻美の誕生日なの覚えてるかしら?良ければ帰ってきて、一緒に祝ってあげて。バイトお疲れ様♪ 母信子より」
剛留は冷めた表情で母のメールを読んだ。帰るつもりは初鼻からなかった。
妹の麻美の天真爛漫な顔を思い出すと、苛立ちが走った。
ガキじゃねぇんだ。誕生日なんて、自分らだけでやってくれ…
剛留の足は、家とは逆の方向へ向かった。
「お兄ちゃん…」