白磁の皿と格闘する。奴らはめくらましの術を使って、淡々とその牙を剥きだすタイミングを伺っているのだ。
「あいてっ」
僕は一人、洗い場にいた。あまり流行っていないレストランだが、たまに近くで催事などあったときなど、異様な客入りを見る。
油モノの汚れはあっというまにシンクに張った湯を濁らせてしまい、皿が割れても判らないのだ。
「あーっ!ちょっとアツ、いったい何枚皿割る気よ」
「僕の心配もしろよー…」
「そんなの気合いでくっつく」
「つくかっ」
今回は結構ざっくりいっているのに、冷たいもんだ。
「ほい、瞬間接着剤」
「酷っ!」
「なにいってんの、人体に無害」「マジか」
「切り落とした指もくっつく」
嘘だ。それは嘘だ。しかし灯は問答無用で僕の手をひきよせると接着してしまった。確かに血は止まったが…
「さ、さっさと仕事しよ」
「どないせぇっつのさ!」
僕の両手の平は、ぴったり接着されていた。
「お湯の中で揉んでればとれるよ、いつか。じゃ頑張れー」
どうしても彼女のいたずらには悪意を感じずにはいられない。たが僕の怒りが長続きした試しがないのも事実。なぜか自分でも不思議で仕方ないのだが、
「まぁ、一種の諦観の境地か」
そんな風に理解。