夜の帳が満天を覆い、底知れぬ闇の漆黒が降り掛る。
真冬の十二月の冷たい風は突き刺さるかの如く私の肌を霞めて徐々に私の体温は下がっていく。
学校の部活動で冬季休暇にも関わらず登校し、今は遅めの下校中だ。
私は手と手を擦りながら摩擦による手の温度の上昇を促したが無駄に終わった。
憂鬱になりつつも家に帰るために最寄りの駅へと早足で向かう。
今日は雪が降ると通行人が言っていた。
最寄りの駅に着き電車に乗り込もうと人だかりに自分も混ざろうとするが私の体格では押し潰されそうになる。男として酷く情けないことこの上無い。
気付いたときには私はホーム側まで押し戻されて電車を酷く不機嫌な顔で見送っていた。憂鬱極まり無い。
ひとまず、親に連絡をいれる。またホームで待つ羽目になる。
ホームで待ってる人は先ほどよりもずっと少ない。
押し戻されたり、潰されそうになったりはしなさそうだ。
不意に視線に目に付く人物が現れた。
私と同じ黒い学ランを着た私と同じ文芸部に所属している私と同じクラスにして私の友人だった。
友人は先ほどからこちらを見ていたらしく意地悪い笑みを讃えつつこちらに近付いてくる。端正な顔立ち故か意地悪い笑みでもあまり悪い気はしない。そこがまた悔しいのだが。
「やあ。さっきは潰されなかったかい?」と言う友人は喉奥でくつくつと笑っている。
私は若干顔をしかめる。
「ああ。お陰さまで生きているよ。君こそ私よりも早くに部室を出たというのに今更お帰りかい?」
友人は微笑しつつ私の悪態に冗談めかしに小指を一本立てた。
私は自分よりも何事に対してもひとつ上手な友人に軽い嫉妬を抱きつつもその冗談に軽く微笑む。
「私は君が歓楽街で娼婦に惑わされて何故だかその娼婦は君の髪を一本残さず刈っていくという夢を見たんだよ」と仕返といわんばかりにいうと、彼はお手上げという風に両手をひらひらとあげた。
そこで丁度電車が到着し、私達は談笑しつつ乗り込んだ。
押し潰される心配は皆無に等しいほどに電車は空いていた。
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