今日、私は結婚しました。
五年間お付き合いをしていた彼と、彼のご両親と四人だけの結婚式でした。
私は彼と彼の両親に今日まで嘘をついていました。彼とお付き合いをするときも、家へ挨拶に伺ったときも、『私には両親はいません』と嘘をつきました。
私の父は私が生まれる前、母を捨てました。名前も顔もしりません。
母は、母子家庭だからと周囲に言われないよう、厳しく厳しく私を育てて来ました。そんな縛り付けられたような生活に耐えられず、家を飛び出したのが七年前です。
その日から、私には両親はいないんだと決めて、ひとりの生活を始めました。
そしてずっと母には連絡を取らず、彼と出会って、結婚することになりました。
そして今日、結婚式が終わって、帰りのタクシーの中で
『お前のお母さんには感謝しなきゃな…お前を生んでくれたんだから』
彼が言いました。
それを聞いて、スッと心の中の何かが落ちていく感じがしました。
そうだ、こんな幸せな瞬間を迎えられたのは、母が私を産んで育ててくれたから。
彼の実家にある二槽式の洗濯機を簡単に使えたのも、煮しめやお雑煮を彼に毎年作ってあげられたのも、そういえば全部、母が教えてくれたから。
七年経って分かるなんて、情けない。
『今何をしてるだろう』
こんな風に母のことを考えたことはありませんでした。
そういえば、もう五十歳。一人で寂しくないかな、まだ元気に仕事できているかな。
心配なことがたくさんあります。
伝えたいことがたくさんあります。
会わせたい大切な人がいます。
だからお母さん、来月、私、家に帰ろうと思います。
そして、彼にも嘘を謝ります。