紺碧の塔4

ニワトリ仙人  2007-01-17投稿
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――辺り一面の花畑。そこにまだ幼さが残りながらも、輝く瞳で前方を見つめる若者がいた。
蝶が、その若者の頭上をはしゃぐ無垢な子供のように飛び去っていく。そよ風が吹き、花畑はそれに身を委ね、綺麗なうねりを作り出す。
「老怪よ」
若者は澄んだ美声で、背後に呼び掛ける。その、醜く小汚い老猿は、まるで枯れ木の枝を連想させるような華奢な長い腕で白く伸びた髭をさわり笑んだ。
若者は悟った。
「悪戯者だな、相変わらず」
若者の口がわずかに緩み、無邪気な子供のような顔立ちになった。「今のあんたの腕なら、わしを殺れるはずじゃ。何もせん」
老猿は余裕の表情を浮かべた。再びそよ風が花達の上を優しく滑っていった。老猿の髭もそれにならい、老猿の顔を隠す感じで風に乗った。
「昔は俺が勇者だった。今は分からん。あの女が全てを変えてしまった」
「ハハハ…、そんな口を叩けるうちは、まだあんたは善良な人間じゃよ。ただ、勘違いしないでくれ。ワシは今も昔も悪じゃ。あんたが叙々に人間の心を失ってきているだけじゃ」
そう言うと、老猿は顔は笑っているが悲し目付きになった。
若者の表情は変わらない。ただ輝く瞳で前方を見つめていた…かすかに涙を滴らせ…


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