「幻界…幻の国って事?」
「いや、手っ取り早く言えば、我々〈四神〉のような連中の本拠地だな」
(四神って、…?)
首を傾げた私に、男は、四神に関してレクチャーしてくれた。
「東西南北の各方位を護る守護神の話は、聞いたことあるかな?Cカップちゃん」
「あたし、…島崎愛です。さっき口走った事、わ、忘れて貰えます…?」
改めて男性の口から言われると『恥かしさ1000倍』な気分…。
「そう?じゃあ、愛ちゃんね。 まだ顔赤いぞ。
ところで…
何で君の犬が急に大人しくなったか分かる?」
「あ、…そう言えば
フレディは?」
「いやぁ〜、気の毒に。僕の本体見ちまってさあ。
もう番犬は出来そうにないなぁ、あれだと」
「本体?」
「ああ。
〈白虎〉と睨めっこしたら確実に心が壊れるよ」
自らを白虎と呼ぶ男が指差す先に、耳を垂れ、尻尾を股の間に巻き込んで失禁しながらプルプル震えている、ジャーマンシェパードの姿があった。
一体、何を見てこれ程怯えているのやら、…皆目見当がつかない。
「方位ごとに、東は青竜、西は白虎、南は朱雀、北は玄武って具合に護り神が決まってるんだ。
僕はまぁ、差し当たって西の…」
説明のさなか、一陣の涼風が吹き抜け、白虎の胸元をチラリとかいま見せた。
「ひいいイイイィィッッ!!」
「あれま、…君も見ちまったか、……やれやれ」
白虎の道服の合間から見えたものは、…鼻面にシワを寄せ、獰猛に牙を剥き出した肉食獣の首……。
私は白虎の声を遥か遠くに聞きながら、意識をフェイドアウトさせていった。