スウェンはただただ立ち尽くした。
体の自由がきかない…。
いやっ動かない。
不本意ながらも反逆者一味の女を討ってしまった。
その女は自分のことを兄と呼び。
そして泣いていた。
(俺は、知らない。この女のことなんか。)
しかし、なぜかこの女の顔を見る度、戸惑う。
声を聞くたび、ひどく胸が締め付けられる。
(なんなんだ…この女は…俺の妹だと…!?そんなわけ…そんなわけねぇ…)
アインという少年と交戦中、自分は迂闊にもその女の泣き叫ぶ声で躊躇してしまい、斬られた。
そして油断していた、アインに武器を突き出した。
だが、自分を兄と呼ぶ女がアインの盾になり、槍が彼女を貫いた。そして今、彼の腕の中で事切れた。
今まで数多くの敵を倒してきた。
たかが、一人を誤って討ってしまっただけで今までにない焦りがある。
取り返しのつかないことをしてしまったような…
大切な人を失ってしまったように。
『うぉぉお!!!』
アインの叫び声でスウェンは我に返った。
雄叫びを上げながら自分に突進してくる。
(速いっ…)
が、成すすべなく、斬られた。
剣が自分の腹に走るのが感じとれた。
熱い衝撃。
激痛。
倒れることすらできない。
アインが立て続けに剣を振り落とした。
(斬られた…。)
今度は倒れた。
床にはいつくばるように…
体から血が流れているを感じる。
立ち上がろうとするが、力が入らない。
倒れた先には自分が討った、リオという少女が横たわっていた。
『兄さんっ!』
そうどこかで聞いた。
頭の中で響く。
『なぜだ…俺は…』
わからない、知らないはずだった。
が、しかし。
あの女と一緒にいた風景が次々と頭の中で写しだされるように爆ぜた。
二人ともまだ幼い。
(…嘘だろ?俺はこの女の子を知っている)
−おにぃちゃん!みてみて〜錬金術で造ったんだよ!−
−今日はあたしが兄さんのために料理作ったげる!−
−封印騎士団になったの!?兄さんすごい!−
(妹…。)
思い出した。
違う。記憶が蘇ったのかもしれない…
もう自分に残された時間はない…
最後の力を振り絞る。
最愛の妹へ。這う。
『すまない…兄が愚かだった…』
スウェンはリオの亡きがらを抱きしめた。