「私のこと、嫌い?」
「うん、嫌い」
…がーん。
ワンテンポ遅れて衝撃がきた。と同時に、なんだとこのガキ、という教育上よろしくない乱暴な言葉が浮かんだ。
「そっか。だからさとちゃんは、私とお散歩してきなさいってママに言われたとき、あんなにワガママだったんだ」
「私、ワガママじゃないもん」
少々嫌味混じりの私を、濡れたような大きな瞳で睨み上げたさとちゃん。彼女は保育園の年長組だ。
私はといえば、高校二年。もちろん、私とさとちゃんは姉妹ではない。こんな生意気なガキ…もとい、小さなお嬢さんの存在は、つい先月まで知らなかった。
「ワガママなのはママとパパとにぃだもん」
『にぃ』とは彼女の二十も歳の離れた実兄のことだ。
「なんで。さとちゃんは、お兄ちゃんが幸せになるのは嫌なの?」
「嫌くない。でも、あんたの家は嫌い」
今度は『あんた』ときたか。大変結構な尊敬語ですこと。
さとちゃんは俯いて、ブランコに座ったまま地面を蹴った。
私とさとちゃんが、私の家にいられない理由。
それは、さとちゃんのお兄さんが、ウチの両親に結婚の承諾をもらっている最中だからだ。
つまり私達は追い出しを食らったってわけ。