「私の家と私と、どっちが嫌い?」
保育園児のさとちゃんと、高校生である私との共通話題は限りなく少ない。
出会いが先月しかも二度。そんな相手と和やかに談笑するのは、なかなかに難しい。
「両方」
「じゃあ、私と私のお姉ちゃんは?」
「あんたじゃない方」
「そっかぁ」
ヤバい。なんだか楽しくなってきた。
さとちゃんの言葉の裏に悪意とか、憎悪とかのリアルさが感じられないおかげだと思う。
「じゃあ、お兄さんのことは好き?」
「好き!」
おお、目をキラキラとさせた意外に素直な答え。
意地っ張りなさとちゃんのことだから、頬を膨らませて猛反発することを予想していたのだが。
「だってね、にぃは強くておっきくて、さとちゃんの味方だもん」
「あー、強い、のかなぁ」彼は文学部で、西洋文学なんたらとかいうサークル出身だったような。
「強いもん!にぃは保育園のお迎えのとき、いっつも犬からさとちゃんを守ってくれるもん!」
「でもさ、おっきい?」
私から見れば、ひょろり、とした印象の強い義兄。確かに身長は高い方だと思うけど。
すると、さとちゃんは『ひどい、私、親にも殴られたことないのに!』的な顔になった。