「にぃは私を怒ったりしないもん」
消え入るような声で、さとちゃんが呟く。
ダメだやめとけ、と思いながらも、ついアクマの尻尾が出てしまう私。
「へぇ。そうなんだ。ウチなんか、姉妹喧嘩はしょっちゅうだけど、そのおかげで姉妹愛は深まったと思うなぁ」
姉妹で愛だなんて、はっきり言えば恐ろしい。思い切り引く。噴飯ものだ。
そもそも、六歳しか違わないウチはともかく。
二十も歳の離れた兄と妹が喧嘩をすると、どう見ても『兄が大人気ない』ということになる。
おまけに、精神年齢同レベルかよ、というツッコミさえされそうだ。喧嘩をしない兄は正しい。
「に、にぃとはもちろん、喧嘩くらいするよ。さっきは忘れてたけど、怒られたり、したことだって…あったよ」
さとちゃんはコブシを固めて、一生懸命兄妹の仲の良さを強調する。
ふっふっふっ。
いかん、あまりの獲物の食いつきの良さに顔が笑ってしまいそうだ。
「でも、にぃが怒るのは、私が悪いことしたときだけだもん」
小さな声でさとちゃんが言った。
「悪いこと?」
「うん。保育園の子に嘘ついたり、お知らせのプリント捨てちゃったりしたときだけ」
さとちゃんは一生懸命言葉を紡ぐ。