貴博『………』
気絶させられて…気がついて来て見れば…
これは…どういう事だ…?
舞い上がる血飛沫、飛び散る肉片、木霊する叫び声。
今…叶呼の奴…
殺したよな…?
人を…
貴博『一体なんなんだよ!』
気がつけば叫んでいた。
叶呼『……え!?』
俺に気付いた叶呼が驚いた顔をしてこちらを見ている。
しかしそれはすぐ満面の笑顔に変わった。
叶呼『…良かったぁ!無事で…本当に良かった!』
目に涙を溜め、こちらに歩み寄ってくる。
体中に返り血を浴びて。
叶呼『大丈夫なの?どこも怪我してない?』
…なんなんだよ
お前人を殺したんだぞ?
貴博『……おい』
やっとの思いで声を出す。
叶呼『ん?どうしたの?』
訝しげな顔をしている俺を不審に思ったのだろう、叶呼が不思議そうな顔で見つめてくる。
貴博『…あの男はどうした…?』
俺は男の亡骸を見て言った。
叶呼『もう死んでるよ』
人形のように感情のない表情。
貴博『んなこと聞いてない。お前が殺したのか?』
叶呼『そうよ』
声に感情がない。
貴博『……どうして?』
叶呼『殺されちゃうから』
貴博『ふざけんな!!!』
叶呼『…っ!』
自分がどうして怒られたか分からず、心配そうに俺を見守る叶呼。
貴博『お前は…こんな…分かってるのか…?』
人を殺したんだぞ?
怒りと悲しみがないまぜになって、何を言いたいのかさえ分からなくなっていた。
こいつは叶呼なのか?
俺の知っている叶呼とは違う叶呼がここにいる。
叶呼『大丈夫、お父さんに頼んでなんとかしてもらうから!私捕まっちゃうなんて嫌だからね』
何を言ってるんだ?
バレるバレないの問題じゃないだろ!
貴博『ふざけんなよ…!』
叶呼の胸倉を掴み引き寄せた。
確信した。
あの男が言っていたことはすべて真実だ。
こいつが……望を殺したんだ。