「参ったねこりゃ…。
完全に白目むいちまってるよなぁ…」
島崎愛が失神するありさまを見ていた白虎は、困った様子でポリポリ頬を掻く。
やがて、その指で宙を切るしぐさをすると、カーテンを持ち上げる様に景色をペロンとめくった。
切り裂いた隙間から、全く同じ景色の夕景が見える。
「昼間からこんな所にいると、青竜の奴がうるさいからな…」
ブツブツ言いながら、白虎は島崎愛を軽がると担ぎ、黄昏のあわいに消えてゆく。
切り裂かれた空間の裂け目は内部から閉じられ、全く何の痕跡も残らない。
「あ、……。
あたし、気絶してた?」
「愛ちゃん、おはよ。
と言っても夜だけどさ」
「ヒッ、…ば、化け物…」
「いやいや、愛どの。こやつはな、馬鹿者じゃ。
のう、青竜」
「全くだ。 大体、現世で昼寝するなど守護神の自覚に欠けておるわ」
「…たまたまだろう?
千年振りに寝坊した位でそこまで言うか?」
私を取り囲む男たちが、何やら言い争いをしていた。
「お嬢さん、恐がる事はありませんからね。
みーんなあなた方の守り神なんですよ」
「あなたは?」
「あたしゃ玄武ですよ。
北の守りでしてね」
黒い道服で白髭のおじいちゃんが、にこやかにそう名乗る。
「左様。それがしは南方の守り、朱雀じゃ」
赤い道服の口髭をたくわえた男が、気取った態度で名乗る。
「俺は、東の青竜」
紺の道服をまとったクールな二枚目さんが、こちらへ鋭い一瞥をよこす。
残る一名は白い道服の白虎だった。
今は憮然としたおももちだが、どことなく女ったらしに見えた。