明李(あかり)は億劫だった。
大阪の友達と海でも行って、男を引っ掛けて遊んでいた方がどれだけ楽しかったことか、と考えていた。
「お婆ちゃんの家に行くの、久しぶりでワクワクするね」
お母さんは陽気だ。
お父さんとお母さんは日頃の疲れを落とすため、田舎でのんびりもいいだろう。
でも私は高校三年生だ。最後の夏休みくらい友達と過ごしたかった。「あぁ゛〜、結局私は彼氏も出来ず寂しい高校生活を終えるんだわ」
「彼氏なんて大学行って見付ければいいのよ」
お母さんが笑って言った。お父さんも「そうそう」と同意を示し、煙草を吹かした。
「フンだ!」
私は可愛くグレてやった。
屋根無しのスポーツカーは(っていうか、私自信車には詳しくないから何て車か知らないの)遠慮なく太陽が照り付けてくる。
お父さんは年甲斐もなく、オールバックにアロハシャツ、イカついグラサンにヘビースモーカーという、何とも救いがたい格好で運転を続ける。
お母さんもお母さんで、自分の年齢を悟らせないよう濃い化粧にド派手かつ大胆な服装だ。胸元と股がいやらしく露出している、若いならまだしも私は恥ずかしい。
お婆ちゃんの家は海のよく見える丘の一軒家だ。確かでっかい田畑を持っていて、幼い頃はよく手伝って野菜を貰っていた。
しかし大阪に引っ越してからは、以前ほどお婆ちゃんの家には帰らなくなり、最後に行ったのは確か中学二年生の夏休みだったはずだ。記憶はほとんど薄れていた。
海に臨む峠に差し掛かった時だ。
突然風が強くなり、体が冷えてきた。寒くなりトイレが近くなったのか、お父さんは車を道路脇に停め降りた。「ちょっくら立ちション」
「止めてよ、もぅ〜!」
私はお父さんから顔を反らした。
「じゃあ私も」
そう言ってお母さんも降りた。「やだァ」子供心(ってかもう十八歳だけど)に情けなく感じた。 私はしばらく海を眺めていた。雲一つない青空は、海をより一層輝かしく見せていた。
海からくる潮風が心地好かった。
「二人ともまだあ?」そう言って振り向いた。
お父さんとお母さんはそこにはいなかった。驚いて周囲を見渡すが、人一人見当たらない。
「あれ…」
空は晴れ、海の見える田舎峠…そこには私以外誰もいなかった。