「人が善いなんて、そんなそんな」
滅相もない、と顔の前で手を振るじぃちゃん。だけどさ。
「今のは、誉めたつもりじゃないんだけど」
照れ笑いを浮かべてくれるな。
「おや、そうかい?」
不思議そうに首を傾げる白髪頭のじぃちゃんは、現役時代、グループ企業のトップだったようにはとても見えない。
せいぜいが年金暮しの御隠居だ。
もっともその年金が莫大。おまけに相談役とかなんとかで、座っていても金が転がりこんでくるし。
「大体さぁ、じぃちゃんが詐欺にあうの、これが初めてじゃないじゃん。今回は金額少なかったみたいだけどさ」
「詐欺だと決めつけちゃいかんよ」
「ほら、そうやってすぐ相手を許しちゃうじゃんか。そんなんじゃ、相手がつけあがるだけだ」
「一理あるな」
「納得するくらいなら、いい加減学習しろよ。俺が説教すんの、これで何度目だと」
「わかってる。心配かけてすまんね」
いや、謝られても…。
まぁこの人の金だから、詐欺にあったとしても使い方は本人の自由、なんだけどさ。
「君は素晴らしき親友だ。ま、私はだまされたとしても、別に構わないんだよ」
…どこまでお人好しなんだ、この人は!
「じぃちゃんは構わなくても、他に被害にあってる人が気の毒だろ?」
と、そこへ。
「旦那様、日吉様がいらっしゃいました」