宗劉は、「…今はその話をしている場合ではない。言を慎めと言っただろう、劉嘉よ。」と、帝をたしなめました。
しかし帝は、「逃げないで下さい兄上!貴方が私の質疑に答えない限り…私は帝の座を貴方に渡しません!そして貴方が姫を愛していないと答えれば…──もう絶対に帝の座を渡すわけにはいきません。だってそうでしょう?姫は左大臣家の娘…。娶るにはそれなりの地位が必要です。最上の身分である帝なら、有無を言わさず娶ることが出来る…!だから貴方の答え次第では…──」と、負けずに喰らい付いてきました。
その時です。
「いい加減にしろッ!!」という怒声が壱の宮に全体に響きわたりました。
突然響いた怒声に、帝も姫も月乃さえも驚き、声の主のほうを見て瞠目しています。
その声の主・宗劉は、声を荒げたまま、「いい加減に口を慎め…劉嘉…!よいか!?確かに…最初私は、姫を隠れ蓑としてしか見ていなかった!…けれど、世の女性とは全く違う姫の容姿に…、姫の聡明さに私はすぐに惹かれていった…。姫を…愛しいと思うようになった…。だが…姫を危険な目に遭わせたくないと思いながら、しかし結局は姫を利用する形になってしまった。けれど信じてほしい!姫!私のあの言葉は真実だ!嘘偽りのない真の心だ!」と言い、その後静かに目を伏せました。
そして「しかし今は…今はその話をしている場合ではない。私は一刻も早く帝位に戻り、腐敗した朝廷を…いや、腐敗の根源の右大臣家を滅ぼさねばならぬのだ。だから劉嘉…──私に帝位を返譲してくれ…。」と呟くように言うと、帝をじっと見つめました。
帝は、宗劉から目をそらすようにしてしばらく黙りこんだ後、「…帝位を兄上に返譲する?…いいでしょう。ではその代わり…──伊織姫を私にください。」とキッパリ言い放ったのでした…。