「おーいッ!出てこォいッ!」
二人とも何処かに隠れて、私を脅かそうとしているのだと思った。あの年齢でふざけた性格だから…と、私は愚痴をこぼした。
(だったら持久戦よ!絶対しらん顔してやる)私はふて腐れた感じで車のシートに横になった。日が強く照り、私は目をギュッと閉め、助手席に置いてあるお母さんの麦藁帽を深々と頭に被った。
時間だけが過ぎた。
いつもと何だか違うということに、私は気付いた。
あれから一時間経つのにお父さんもお母さんも帰ってこないのだ。私は不気味になってきた。
「お父さん!?お母さァん!!!」
小さな子供のように大声で叫んでみた。返答はなく、はるか眼下の波の音が虚しくざわめいている。
異変に気付くのが遅かった。私は弾かれるように車を降りた。
まず道路の脇の雑木林を覗き込んだ。あちらこちらにゴミが捨て込まれており、人の踏み込んだ跡は見られなかった。
「どこ行ったのよ、アイツら…」
自然に自分が過呼吸になっているのに気付いた。
混乱する自分の頭を落ち着かせ、とりあえず私は峠の麓に降りることにした。
麓には小さな漁村があったし、そこから警察に電話して調べてもらおうと考えた。私は、助手席に置いてあったお母さんのブランド物の財布のみを懐にしまい込み、峠を徒歩で下り始めた。
途中、何度か車の方を振り返ったが、車の周囲には人気はなかった。
私は寂しさと悲しさでとめどなく涙が溢れるのを堪える事ができなかった。
(あの馬鹿どもォ…もしひょっこり帰って来たら…ただじゃおかないから…でも、ひょっとして…ひょっとして…)
私は高校生にかかわらず、声を出して泣いてしまっていた。不思議に恥ずかしいとは思わなかった。
夏の熱さは堪えたが、それよりも一人の孤独から早く抜け出したいの一心で、一時間程掛けて何とか麓に辿り着いた。
麓に辿り着いて、私は何か心に引っ掛かった。
「…いやに静かね…」静まり帰った真っ昼間の漁村、その中で私は一人たたずんだ。