私は最後の家に近付いた。
チャイムを鳴らしても、何の反応もない。私は何のためらいもなくドアを開いた。
「失礼しまぁす…」
静まり帰っている。
「失礼しまぁすッ!」半泣きの声で叫んだ。やっぱり何の返答もない。
(ここもか…)
私は漁村の全ての家を訪ねてまわった。全部で十数件の小さな漁村だった。
一つ分かったこと…
ここの漁村には誰も人がいない。どの家にも。そして外にも。しかし何か不自然なのに私は気付いていた。
「車で上がっていく時には、確かに誰かいたんだけど…どこ行っちゃったのカナ…」
仕方なくヘナヘナとその場に座り込んだ…その時だった。
「ワォォオッワンワン!」
「きゃあっ!」
私は思わず叫んだ。私のすぐ隣に、鎖に繋がれた犬(茶色だけど…柴犬?)がいて、凄まじい形相で吠えまくってきたからだ。不意をつかれ、私は死に者狂いでその場から離れた。
私が不自然だと思ったことの一つは、いないのは人だけだということ。
民家の周囲には飼い犬や飼い猫、また鶏や牛もいた。しかし、それはちゃんと飼育されており、ここの人達がいなくなったのはつい先ほどだということが分かる。
「ったく、どこに行っちゃったのよ…みんな」
私はうつ向いた。ひどく心細かった。
お母さん達が消えてから、おおよそ四時間が経過した。未だに漁村に人の帰ってくる気配はない。日は沈み始め、夕闇が迫ってくる。
さっき私に吠えたててきた犬の鳴き声が耳に入った。
空き地のブランコに腰掛けていた私は、さすがに変だと思わざるを得なかった。
周囲を見渡す。人の気配はない。
夕闇が迫るに連れ、とてつもない孤独感と恐怖が私を飲み込んでくる。犬の遠吠えが、一層私を焦らせた。
「誰かいませんかァーっ!!」
自然と大声が喉から漏れた。周囲は犬の鳴き声以外、何も聴こえない。
「誰かいませんかァーっ!!!!??」
今度の私の声は涙の混じった、しゃがれた声だった。
胸がツーンとなり、幼い子供のように泣いていた。涙と鼻水がとめどなく流れ、顔はくしゃくしゃだ。
でもそんなの構わない。
「誰かいないのォ!!返事してェ!!お願いぃ…ぇぐッぇぐ」
私は走った。
他人の家に無断で、しかも土足で上がった。廊下の突き当たりに電話があった。
強引に受話器を掴み、知ってる電話番号に片っ端にかけた。
嫌な予感は的中した。
誰も出なかった。