『フハハハ!待っておれよ小僧』
アインの言葉が終わらないうちにレグナは広場に突っ込んだ。
集結していた兵士達は確実にこちらへ突っ込んでくる竜にあわてふためき、散り散りに逃げ戸惑う。
ある者はレグナの鈎爪にえぐられ。
ある者は翼に弾き飛ばされ、見る間に隊列が崩れていく。
『早く!今のうちに』
マナをせき立てて、レグナに駆け寄る。
その周囲にはもはや兵士は残っていない。
ただ骸が転がっているばかりだった。
『いいえ、行かせないわ!』
逃げ戸惑う兵士達の間から凛とした声が響いた。
『アイン、いい加減にしなさい!』
兵士達をかき分けるようにしてエリスが近づいてくる。
『その忌まわしき女から離れなさい!』
『エリス…またお前か。忌まわしきって…』
『ええ、そうよ。その女に人々は救えるはずがないの』
エリスはどこか確信に満ちた表情をしている。
『マナ、お前こそが18年前に世界を破滅へと導いた張本人ですものね』
口元に笑みを浮かべてエリスが言い放つ。
18年前の出来事。それはこの世界で生きる全ての人が知っていることだ。
いつだったか、アインはオローから一度だけ世界が破滅しかけたと聞いた。
詳細は詳しくしらないが…
多くの犠牲と引き換えに世界崩壊は免れたのだという。
『帝国軍、天使の教会、赤い空…それはすべてこの女の悪行よ』
『う…そだろ?』
『いいえ。間違いないわ。わたくし、書庫の文献を調べたの』
『どういうことなんだ…?』
アインはマナを振り返った。
否定してほしかった。
いい加減なこと言わないで、と憤ってほしかった。が、マナは俯き視線を落としている。
口を開こうとはしない。
代わりに一喝してきたのはレグナだった。
『このふぬけ小僧が!いつまで無駄話しに付き合っておるのだ!
でも、とアインは口ごもる。
『くそっ!わかったよ早くここから離れよう』
アインはマナの手を引き、レグナの背に登った。
そうだった。
今はここを脱出するのが先決だ。
『アイン!待ちなさい!』
レグナが翼を広げた。エリスが必死で追い縋ろうとするが、地を這うものが翼に敵うはずがない。
エリスの姿がみるみる遠ざかっていった。