その日の朝はいつものような暁色の夜明けが過ぎ去り、いつものような静かな朝を迎え入れようとする、そんな朝だった。しかし、この日の朝の幾つも建つ高層ビルは異例な無人の静けさが不気味に保たれていた、そんな不思議な日。
そんな朝、彼は走っていた。とにかく遠くへ、とにかく全力疾走、とにかく同じ最期を迎え入れたくないから。だから、走っていた。
革製の漆黒のコートを揺らさせ、首に掛けてあるネックレスがチャラチャラ鳴らさせながら、耳障りだと何度も思いながら走っていた。不思議に息は切れなかった。このまま永遠に走っていようかとも思った。
無造作に伸びた白銀と顔付きにはまだあどけなさが残り、日本人のような瞳を持っている。彼はこの状況を鬼ごっこと見ていた。だがどうやら鬼ごっこは終わりらしい。まだ楽しんでいないとゆうのに。
黒き革製のコートを翻ると同時に両手から炎が吹き出し、二本の剣へ姿を変えた。二本とも刃が黒炎に染まった輝きを持っている。
｢諦めたか｣
何もない空間から闇色の穴が表れ、そこから闇色の粒子を纏ったフードで自身の顔を隠す男が低い声を発しながら現れた。手には引きずるように持つメタルレッドに輝く[爆炎のクレイモア]が彼の得物だ。
｢ば〜か。わざと見つかってやったんだよ。｣
｢相変わらずよくほざくガキだ。｣
二人の間から燃えるような闘気が沸き上がる。互いの激しい先読み合いが先に気を許した方が敗北者となる。 遠くもなく近くもない微妙な間合い。それは互いが持つ得物では相手に届かない間合いだ。ジリジリと両者が歩み寄る。が、両者はまだ構えない。
カタカタと幾つもある高層ビルの窓が揺れ始め、あるところはヒビが入り始めている。 互いが一メートル動いた時点で始めて革製の漆黒のコートの青年が剣を構えた。まだ奴は爆炎のクレイモアを構えない。いや、引きずるように持つのが奴の構えかもしれない。
依然として窓ガラスはカタカタと震えている。
そしてついに。
どこかの窓ガラスが割れた。
それを合図に二人の業火では緩い闘気がぶつかった。
その日の戦いは幾つもある高層ビルを灰にする戦いになった。
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