「完全に遅刻や〜!」
いつもの様に甘いシャンプーの香を漂わしながら、吉岡容子はカフェへ急ぐ。
仕事では誰からも信頼され、リーダーと認められる存在の彼女も、一人のアルバイトでしかないのだから、遅刻がそう何度も許されるものではない。
「こりゃやばいやぁ〜さすがに・・・」
容子のシフトはいつも朝六時から日中三時までの早番で、とにかく朝が早い。
昨日も遅刻している容子は今日こそは落とされるであろう、やまんばの雷を覚悟していた。
やまんばとは容子の唯一の天敵、42歳主婦、山木香代の事である。
このカフェ一番の古株で店長も頭があがらない事実上の権力者である。
若くて仕事ができ、そこそこ容姿が整った容子にかなりの敵対心をもっており、またこの二人はシフトもばっちり重なるものだから容子にとってはたまったもんじゃない。
「あぁあ・・・憂欝だぁ」
そう思いながら駆け足のまま慣れた細道の四つ角をまがろうとしたその瞬間
『ドッシーン!』
その衝撃がなんだったのか、容子は確認することも出来ないまま気を失ってしまった。