中途半端に愛さないで

73  2007-02-24投稿
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中途半端に愛さないで
気持ちが悪い。
愛だの、恋だの。
俺は、親父の顔もお袋の顔も見たことがない。
赤ん坊の頃に捨てられて施設で育った。
俺は、今まで一人ぼっちだった。
誰にも頼らず、賢く生きていく術を身につけていった。いつも他人と線を引き、あまり関わらないようにしてきたつもりだった。
…でもあいつは、俺の気持ちなんてお構いなしに、軽々と線を飛び越えてきた。初めは、すごく嫌だった。拒絶もしたし、ひどい言葉もたくさん吐いた。でもあいつは、俺から離れなかった。
いつしかあいつに徐々に心を開いている自分に気が付いた。
あいつが笑うと、俺も嬉しくなって笑う。
あいつが泣くと、俺も悲しい気持ちになる。
そんなあいつにいつしか愛しさを感じるようになって…
それがいけなかったのかもしれない。俺には、俺らしい生き方があるはずだったんだ。
愛を知らない人間は愛を求めない方がよかったんだ。愛を知らない方がよかったんだ。
裏切られた時に余計に傷がつくから。
あいつは、今、俺の目の前で顔に白い布をかぶせられ、身動き一つしない。
もう、
―あの声も
―あの笑顔も
もう、きけないし、もう見れないんだ。
あっけなかった。車に跳ねられたと知った時は頭の中が真っ白になった。急いで病院に駆け付けたけど、遅かった。
「…んで…何でだよぉ…!」
俺はあいつの寝ているベッドを何度も、何度も、泣きながら、揺さぶった。
「なぁ…お願いだよ、俺のこと…」

―中途半端に愛さないで

おわり。



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