毒舌君主[四]

73  2007-03-01投稿
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由香里は少しの間、言われた事の意味がわかっていないようだった。しかし、数秒後、由香里の目にみるみるうちに涙がたまっていく。由香里は店を飛び出そうとしたが、入り口の辺りで何を思ったのか立ち止まり昭久の方を振り返る。
「私、あきらめませんから!」
そう叫び、由香里は走り去っていった。
「おいおい、昭久、どうすんの?」
修は慌てる。
「知るか。」
そう言い放ち、昭久は厨房の中に入っていってしまった。
「仕方がねぇーなぁ…」
頭をガシガシ掻くと、修は店を飛び出した。
店を出て、修は曲がり角を曲がったすぐの所で由香里の後ろ姿をみつける事ができた。
「ちょっと待って!えーっと由香里ちゃん?だっけ…」
修が引き止めると泣き腫らした目をした由香里が振り返った。
―公園のベンチに座り、修の買ってきた紅茶を飲む由香里。「話したいことがある。」という修の申し出によって二人は近所の公園に来ていた。
さきほどより大分落ち着いてきた由香里を確認してから修は切り出した。
「…由香里ちゃん、昭久はやめといた方がいいよ。」うつむいていた由香里が修の顔をみる。
「今のあいつはきっと誰もだめだ。例え絶世の美女に告白されても断るよ。」
「…どうして?」
「んー、まぁ、あいつも色々あるんだわ。」
修は言葉を濁し、ベンチから腰を上げる。
「もう遅いし、帰ろう。送って行こうか?」
「あ、いえ、家すぐそこなんで。ありがとうございました。」
由香里は頭を下げる。
「いえいえ。じゃあ、気をつけてね。」
修は、ヒラヒラ手を振り、由香里を見送った。
帰り道の間中、由香里は修の言葉の意味を考えていた。
『絶世の美女にも興味がない…もしかして男の人が好き…とか?』
由香里が妄想を繰り広げている時、店じまいを終えた昭久は一人、マンションの屋上にいた。手には、水色とピンクの色違いのグラスを持って。
「…おそろい…だろ?」
昭久はつぶやき、月明かりを反射してキラキラ輝くグラスをただ見つめていた。 続く



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