「大義の任、果たしてくれたようだな。見事だ、フォルセティ=ヴァール」
謁見の間。
目の前の玉座に座しているのは、ティノア神聖帝国皇帝ウィンバルド=ティノア。
発する言葉には重みがあり、一挙手一投足は皇帝の威厳に満ちていた。
「ハッ」
深く腰を曲げ礼をするセティ。
いつになく緊張しているようだ。相手が皇帝なのだから仕方がないことだが。
「それでは、例の物をこちらへ」
ウィンバルドの隣りにいた中年の男がセティに声をかける。
「ハイ」
返事をし、懐から小さな革の袋を取り出すと、壁際にいた衛兵の一人がセティに近付き革の袋を受け取った後、中年の男に渡した。
中身を取り出し確認する。
「皇帝」
中年の男はウィンバルドに革の袋の中身を渡す。
その時に中身が見えた。
距離がある為にはっきりとは見えなかったが、少し大きめの宝石のようなものだった。
「リアファル」
ゼノスは無意識のうちに声をだしていた。それほど大きくはなかったが、雑音もなく静まり返っていた謁見の間では室内に響き渡るには十分だった。
ウィンバルドの意識がゼノスに向く。
「ヴァール。隣りにいる男性は?」
「リアファル奪還の際の協力者で、ゼノス=シェインと言います。『死をもたらす蛇』を地に返すほどの実力者です」
ウィンバルドの視線が一度上下する。
「ゼノスか。お前がいなければリアファル奪還の件、困難なことになっていただろう」
「やはり、それはリアファルなのか?」
「ゼノス!もっと言い方を考えなさい!」
セティが慌てて注意をする。
「ヴァール。構わんよ。それよりも、彼には何も話していないのか?」
「ハイ。極秘任務でしたので道中で漏れてはいけないと思い、ここまで何も話さずに来ました」
一度頷き
「そうか。分かった。ゼノスよ、お前が言った通りこれは戴冠石リアファルだ」
ゼノスに見せるように、ウィンバルドは手の平に乗せた。
戴冠石の名が示すとおり、リアファルは王の証しとして代々受け継がれてきたもののはずだ。しかし、この状況をみると…
「気付いているとは思うが、戴冠石リアファルはある者の手によって盗まれた。リアファルに使われている石は、現在はほとんど発掘出来ない希少な鉱石の為にこの大きさぐらいになると途方もない価値になるのだ」