“ゴオオオォー…ッ”
凄まじい唸りをあげて風が耳元を通り過ぎる。
私達は立ち塞がる障害物を木っ端微塵に砕きながら疾走する白虎の背中で、人間の姿を取っていた時との激しいギャップをまざまざと思い知らされた。
同じ景色でも、青竜の時とはかなり違って見える。
(もうじき到着だよ)
「あ、はいっ!」
頭の中で響いた声に普通に返事をしたつもりが、風の唸りにかき消されて自分の耳には届かない。
思わず、横目で中原健次と大橋友紀恵にチラリと視線を走らせてみた。
日頃車やバイクでカッ飛んでいる二人は、憎らしいほど平然とした表情だ。
突如として始まった爆裂加速同様、停止の瞬間も唐突にやってきた。
「きゃあっっ!!」
不意に白虎の巨体が“フッ”と消失し、宙に浮いていた私達は当然のごとく落下を始める。
「おっと危ない!
いやあ、ゴメンゴメン、人を乗せたの久し振りだからね」
「も〜っ、どこ触ってんのよエッチ!!」
今回はおしりを触られた…
全くもって、セクハラな奴である。
「何だか靄(もや)がかかってますね?」
「ああ、雲の中にいるみてーだな」
「いやいや、ここは、神界と現世の境目じゃ。
愛どのは白虎が気に入られたかな?」
「違います!!もーっ、離してよ!」
「うーん…、この抱き心地は名残惜しいけど、仕方ないなあ」
白く霞む景色の中、朱雀が髭を捻りながら、ためつすがめつこちらを眺めているのが見えた。
玄武のお爺ちゃんは、片手をあげてにこやかな笑顔。
青竜はクールなたたずまいを保ち、私達三名に涼やかな目線を送る。
私は白虎の横っ面にペチッと平手打ちを喰らわせ、中原健次の背後に逃げ込んだ。
左のほほに紅葉の様な手形を残したまま、白虎はニタニタほくそ笑む。