ヤス#3
「し…死んでいるのか?…捨て子か!?」
「分からん…賢三さん…確かめろ」
「爺さんが確かめてくれ」
「ワシは嫌じゃ。こんな幼子…もし死んでいたら悲しくてやりきれん!賢三さん、頼む。その子が息をしているか…早く確かめてくれ」
森一にそう言われ、賢三は這うように、恐る恐る木箱を覗き込んだ。船が揺れる為になかなか様子が分からない。
「爺さん…この子」
「生きているか…それとも…」
「生きているぞ!微かに息をしている!大変だ!」
「お、男か?それとも女の子か?」
「そんなこと分からん!この凛々しい顔だちは男の子だろう…爺さんよ!漁は止めだ。急いで島に戻るぞ!」
「おうさ!」
手漕ぎ船は赤ん坊を乗せた小船を曳き、波間を縫って行った。
船が去った後、しぶきを上げ、うねっていた水面が俄に静かになった。と、同時に水面すれすれで巨大な影が右へ左へと動いている。おおよそ百メートルはあるだろう。その巨大な影はゆっくりと浮かび上がってきた。水面から出たウロコが油ツボから上げたように鈍く光輝いている。そして、真っ白な泡の塊の後、巨大な頭部がしぶきを上げながら上がってきた。
赤い龍。忽ち一面に霧が立ち込めていく。