ヤス#4

チャーリー  2007-03-04投稿
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ヤス#4
その霧のかなたへと立ち去る木船を金色の眼がじっと見つめていた。
第2章[サトリ]
昭和三八年八月。お盆の賑わいも過ぎ、崎戸島にもようやく静けさが戻ってきた。ヤスの住む崎戸島は、東シナ海に浮かぶ、島民三百程の小さな島だ。学校の地理の教科書程度の日本地図には、その所在すら載っていない。ヤスは残り少ない夏を謳歌すべく、猿股とランニング姿で釣りに出掛けた。
釣り竿は乾燥した竹に焼きを入れたもので、エサはゴカイかヤドカリである。あえて、持っては行かない。現地調達である。
ヤスは靴も履いていなかった。持ってはいる。が、それは今年入ったばかりの小学校へ履いていくもので、釣りなどには勿体無くて履いては行けないのだ。猿股とランニングシャツが、ヤスの夏の正装だった。
島には崎戸小学校という立派な名前の小学校がある。全校生徒が六十人にも満たないが分校ではない。明治時代から存続するこの小学校は後に炭鉱閉山で四つの小学校が合併する際、その名前が継承され今でも存在する。
明日、二一日はヤスの七歳の誕生日だ。ヤスは忘れていた。自分の誕生日を、である。


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