ヤス#5
自分の誕生日くらい覚えていても良さそうなものだが、ヤスは無頓着だった。未だに誕生日ケーキなるものを見たことも無い。
島民皆貧乏…では無い。島民の半数が、隣の島にある崎戸炭鉱の鉱夫で残りは漁業に従事している。炭鉱勤めは劇務だ。だか、その分給料も良いらしい。
幼いヤスにはそう思えた。島には十一人の同級生だいるが、炭鉱夫を父親に持つ友人は洒落た靴も持っているし、着ている服にも穴は開いてなかった。田舎とは言え、猿股で過ごす者などヤスくらいのものである。
同級生のうち三人が女子だが、彼女達はヤスとすれ違うと頬を染めながら小走りで去って行く。ヤスはそんな乙女心など知る由も無かった。
漁師を父親に持つ友人達と言えばどうたろう。ここにも、貧富の差は歴然としていた。
当時、機械船を持っている者は少ない。ヤスの父親は、小さな手漕ぎの木船で細々と刺し網漁を営む漁師だった。漁獲高の差は言うまでも無いだろう。
そんな理由でヤスの家は貧しかった。この春、島の小学校に上がったが、余りのみすぼらしさに教師陣からは同情される始末だった。だが、ヤスは「ふんっ」と思っている。