ヤス#6
裕福な友人が羨ましいとも、自分が惨めだとも思っていなかった。何故か?ヤスは子どものくせに「漁師」としての自覚がしっかりと身についていたのである。ヤスは物心ついた頃から漁に出ている。もちろん、父親と祖父について行くのだが、しっかり、その役目を果たしていた。小学校に上がってからも、毎朝、四時には海の上で「ろ」を漕いでいるのだ。その辺のハナタレとは違っていた。だか、いかんせん、若干六歳である。いかほどの働きができただろうか?生活は劣悪だった。島には水道も無く、水は島にある二つの井戸と雨水に頼っている。風呂は五右衛門風呂で、それに必要なマキも、一年を通して用意しなくてはならなかった。電気はつい最近になって引かれたが、ヤスの家は二十ワットの豆電球が、居間にあるだけだった。
毎日の食事はほとんどが魚で、ヤスが釣ってくる魚が食卓に並ぶ。漁で捕れた魚は市場に出す。傷物とヤスが釣る魚が年中食卓に並ぶのだ。魚の顔なんて見たくも無い!…とは思わなかった。魚しか無いのだ。それを食しなければ、飢えて死ぬしか無い。山には、猫の額ほどの畑があり、母親が野菜を栽培していた。ほとんど自給自足を強いられていた。