とんこつラーメンは、絶品だった。
「いやー、噂通りの味だったなぁ」
ギョーザもチャーハンもうまかったし、言うことなしだ。とかなんとか言っているが、私の煮えくり返ったハラワタはおさまらない。
「・・・ちゃんと返しなさいよ。マジで」
膨れた腹を押さえるこの男は、なんと、財布に千円札一枚しかいれていなかった。そのくせラーメン二杯とギョーザ・チャーハンを一皿ずつ食べた。
もちろん、代金を払ったのは私。
この・・・このダンゴ虫!
細心の注意を払って食べたため、白いコートがよごれなかったことだけが不幸中の幸いだが、多分道行く私達はギョーザ臭い。こんなんじゃキスした日には千年の恋も冷める。
ラーメン屋を出ると、暖かな日差しがぽかぽかとあたりを包む。
どこにいくあてもないまま、住宅街の中を二人うろうろと進む。
・・・私はどうして、コイツと付き合っているんだろう。
素朴な疑問が頭をよぎる。
自分勝手でワガママで、迷惑かけても悪びれるそぶりも見せない。金も持ってないしそんなにカッコイイわけでもない。のんびりしているのが長所かと言えばそうでもなく、単に死ぬほどマイペースなだけ。
最悪だ。
いい加減、この男と縁を切らなければ。
「ねぇ」
この際貸した千円はドブに捨てると考えて、今のうちに、言ってしまおう。
私の声に振り向くと、言わんとしていることを感じ取ったのか、その目が見開かれる。
「別れ」
ましょう、とはいえなかった。
何を思い立ったのか、目の前にいた男は突然走り出したのだ。
かと思うと、前方にある小さな家を指さした。
「あったあった!ほらみろよ!」
「へ?」
小さな家はだいぶ古びていて、誰かが住んでいる気配もない。
「ここがどうかしたの?」
問う私に、にんまりとした笑顔で応えるコイツの意図がわからない。
それでも指差す先に視線を向けてみれば――
「・・・あ」
目の前の男と同じ名字の木の表札が、家の玄関にかかっていた。