「な〜いちょ、どうちたの? お腹減ったの? さっき食べたでしょ?」
君がナイトに話しかけるときは、何故か赤ちゃん言葉になっていた。僕の隣ではナイトと君がじゃれあっている。
僕はとても満ち足りていた。テーブルには君の手料理。いつの間にか僕らの息子になっていたヤンチャな子猫。そして君――。
まるで本当の夫婦のようだった。こんな日がずっと続いてほしい。僕は心からそう願った。
ナイトは僕らが拾った4匹めの子猫だ。去年の夏、僕はやたらと子猫に遭遇した。最初の3匹は近所の公園で君と一緒に見つけた。
君と公園を歩いていると何かの鳴き声が聞こえた。聞こえたほうに行ってみても何もいない。気のせいかなと思ったとき、僕らの頭の上からさっきの鳴き声がした。
僕らは側に生えている木を見上げた。上に何かいる。幸いあまり高い木ではなかったので、僕は登ってみることにした。
「ミャー」
声を頼りに登っていくと、枝の先の方に黒い影が見えた。よく見てみると、黒い子猫だった。猫について詳しく知らない僕は、猫が木登りするというイメージがなかったのですごく驚いた。
しばらく観察すると、どうやら降りられなくなっているみたいだった。猫は高い所から落ちても大丈夫だと聞いていたけど、子猫だったのもあり、様子を見ていて心配になったので抱いて降ろすことにした。
木の上で格闘すること数分。僕はやっと子猫の救助に成功した。そいつは真っ黒な猫だった。
しかし、ほっとしたのも束の間。またもや頭上から鳴き声がしたのだ。
「勘弁してくれよ……」
ため息をついて、君を振り返ると、にっこりと満面の笑みで、僕にGOサインを出した。
ほっとけないという気持ちは僕も同じだったが、どうやら君は自分が行こうという考えは皆無だったらしい。
それから十分ほどのち。僕の腕が木の皮や、彼らのかぎづめのお陰で男の勲章だらけになったのを引き換えに、新たに子猫が2匹救出された。
散歩にきていたおばさん曰く、2週間前くらいに誰かが段ボールに入れて捨てたようだ。近所の小学生達が餌をあげたりしていたが、最初8匹ほどいた子猫は公園の主、カラスに食べられ3匹になってしまったという。
気に登っていたのは彼らなりの身の守りかただったのかも知れない。
そんな話を聴いてしまった僕らは子猫をほっとける訳がなかった。