世界のどこかにある、今の時代と少し違う場所。時が始まったときから、ずっと変わらない場所。時が止まると消えてしまう場所。時と共に生きる場所。それが、リング。
「ねぇ、マスター。おいしいお酒ちょうだい。アタシ、今日泣きたいの」そう言って、私を困らせるこの娘は、町長の孫娘だ。名は、ミカト。歳は21。性格はわがまま。しかし、心根は優しい娘だ。
私は、この町で売れないバーをやっている。名は、ファール。歳は解らない。私には、名前しか記憶がない。それでいいと思っている。気付けばここで、バーテンをやっていた。バーテンをやり始めたのはいつなのか、親は生きているのか、わからない。それでいいと思っている。
「ミカトちゃん。何があったかしらないけど、泣くのは時の無駄だよ。時は、限りなくあるように見えて、実は限りがあるんだよ。それが、今きたとしても、泣きながら、終わりの時を迎えるのは嫌じゃないかい?やはり、最後は、笑顔で迎えたいじゃないか。私はそう思うよ」
「マスター。あなたの話を聞くたびに思うんだけど、マスターの前の仕事って教師だったのかもよ。アタシは、マスターが先生だったら、頑張って勉強したよ。時は無限じゃないか。そだね。ありがと」続