「しかし、ここから盗み出すとは余程の手練れ。これからは今まで以上に警備を厳重にしよう。では、聖杯をここに」
すると、しばらくして側近の一人が銀色に輝く杯のような物を持ってウィンバルドに渡す。
ウィンバルドはリアファルをその杯の上に載せた。
「これでようやく、リアファルを元の場所に戻すことが出来た。公の場で公表出来ないのが残念なくらいだ」
先ほど聖杯を持ってきた側近が慌てて
「皇帝!いくら戴冠石が無事に戻ってきたとは言え、このようなことを公表なされては国の威信に関わります!」
ウィンバルドは笑いながら
「分かっておる。返ってきたのが嬉しくてな、冗談だ」
皇帝が言えば、たとえ冗談であっても冗談ではなくなる時がある。側近も苦労するな。
話も終わり、退室するだけとなった頃、バンッ!っと勢いよく扉が開かれ一人の兵士が駆け込んできた。息が荒い、全力で走ってきたのだろう。
「皇帝!大変です!」
「どうした。何事だ!」
そこで、兵士は初めてゼノスとセティに気が付いたようで、このまま話していいのかどうか言葉に詰まる。
「二人のことは構わん。話を続けよ」
ウィンバルドは先を促す。
「ハ、ハイ!見張りの兵からの報告ですが、北西の方角約十キロ先にモンスターの大軍を発見。進路はここ首都オリュンポスとのことです!」
謁見の間全体に緊張が張り詰める。
「規模は!?」
「およそ数万です」
「くそ。何てことだ。よし、現在待機中の全騎士団に出動の準備!団長には会議の招集を掛けろ!緊急事態だ!急がせろ!」
「了解しました!」
兵士は来た時と同じように走りながら去っていく
「一体どういうことだ?モンスター数万の軍なんて聞いたことがない。そもそも何故そんな大軍の情報が今まで入ってこなかった」
「今そんなことを考えても結論なんか出ないだろ。全部叩き潰せばそれで終わりだ」
久しぶりに暴れられるのが嬉しいのか、この緊迫した局面においても満面の笑みを浮かべるゼノス。
「ゼノス。お前も手伝ってくれるのか?」
「当たり前だ」
手伝うというよりただ、暴れたいだけなのだろうが。「すまないな。では、セティは所属の部隊へ戻り、ゼノスには追って連絡をする。それぞれ部屋で待機しておいてくれ」
ゼノスは案内役に部屋まで案内され、じゃあね、と短く言い残しセティは何処へともなく消えていった。