ヤス#8
ヤスは六歳である。どう見ても無茶をしていると思わざるを得ない。大人だったら、危険だからと、止めるだろう。もし、大人になったヤスがいたらどうだろうか…。やはり止めると思う。止めて欲しい。
昼飯は食ってきた。気力は十分ある。四時間は潜れる自信があった。干潮まで余り時間が無い。ヤスは急いだ。急ぎ過ぎて、砂利に躓いて転んだ。膝を擦りむいて血が出た。
「くそっ!なんでこんなところに石があるんだ!」
膝小僧が赤く擦り剥けている。ヤスは近くに笹藪を見つけると、その中に分け入った。
笹の根元に、オレンジ色をした粘土のような物が張りついている。ヤス達はそれを「血止め」と言って、擦り傷や切り傷に貼っていた。それが効果があったのか「血止め」なる物の効果は不明だが、その時は確かに効いたのだった。傷の手当てをしたヤスは秘密の漁場へと急いだ。峠を越えて島の反対側へ出た。南竹の葉であちこちに切り傷が入っていたが、ヤスは気にも止めない。
「おお!」
潮が引いている。そして、聖書の十戒よろしく、海が割れていた。…のでは無い。この先に、御床島という無人島がある。