ヤス#9
崎戸島と御床島は、小潮の時は離れ離れになっているのだが、大潮の時は歩いて渡れるようになるのだ。
「きれいに引いているなぁ!」
ヤスはその景観に見入ってしまった。ここまではなかなか来ないし、大潮と重ならないと拝めない風景だ。
島へ渡る。この時最も注意すべき事がある。それは帰る時間だ。まだ潮は引き続けているから、あと四時間は海が割れている。それを過ぎれば潮が満ちて帰れなくなるのだ。一気に潮が流れ込むから、少しでも陸を覗かせている内に戻らないと、帰れなくなってしまう。島に取り残されたら大変だ。
「よし!」
ヤスは気合いを入れて、割れた海を渡って行った。岩がゴツゴツ並んでいる。俗に言うゴロタ石だ。大きいのになると三メートルはある。ヤスはそのゴロタ石の合間を縫うように魅惑の島へと渡って行った。
御床島が迫ってきた。御床島には伝説がある。周囲が十キロ程の小さな御床島には動物も棲んでいない。それには訳があって、神様の棲む島なのだ。だから卑しい生き物はそこには棲めない。人間も同様である。そして、その島は巨大な龍によって守られている…という話だ。祖父に聞けば、もっと詳しい話も聞けるだろうが…。