左の翼がない…
翼がない…
翼がない…
翼がない…
大切なものを失ったという現実を受け入れなければならない現実に憎しみすら感じる…
よく見るとちぎれたりしているわけではなく根元から消え去っている
まるで左側の背中には最初から何も存在していなかったような
強烈な悲壮感にうずくまっていると何かが僕の鼓膜を振動させた
何だろう…今のは…
………
また聞こえた
さっきよりもハッキリと聞こえる
音…というより
歌声…?
透き通るような美しい声
若い娘だろうか…
その歌声はすぐに聞こえなくなった
また聞こえてくるのを待った…
夜がきたが僕は眠りにはつかなかった
夜があける
僕は待ち続けた
枯れ葉が落下し水溜まりに波紋を起こしたのを見届けた時あの歌声が帰ってきた…
目を閉じる…
聴く…
遠くに聞こえる歌声…
どこか悲しそうなその歌声はまた消え去ってしまった…
もっときいていたかったのに…
もっと僕を包み込んで欲しかったのに…
僕は待った…あの優しく悲しい歌声を…
歌声は次の日もまたその次の日も僕を抱きしめた…
あの声で歌う娘に逢いたい…
いつしかそう思うようになった…