ヤス#10
島の北側に潮目がある。そこは潮流がぶつかり合う場所で、どんな凪の時でも波が立っている。西から来た流れと、東から来た流れが島の北側でぶつかり、早い潮流となって北に走っていく。
そこは島の漁師も近づかない場所なのだ。恐らく、その海底に龍が潜んでいるのだと思う。ヤスはそう思っていた。そして、ヤスが今、目指しているのはまさしく、その龍が棲む場所だった。大潮の時、その場所は海底が現れる。その辺りはアワビやサザエ、イセエビが難なく獲れる事を母から聴いて知っていた。誰も近づかない場所程、魅惑的なのだ。危険は承知の上だった。禁断の場所に着いた。ヤスは釣りの餌を探した。ヤドカリや小エビを探す。餌には困らない。餌をかき集めたヤスは、早速釣りはじめた。釣り糸を垂らすと、直ぐに大きな手応えがあった。
「来た!」
恐らくジイクサビかアラカブだろう。竿が折れるのでは…と、心配する程の手応えだった。
「おお!ジイクサビか…デカいな」
ヤスは針を外すと、獲物を網に入れた。次に釣れたのが、巨大なアラカブだった。三十センチはあるだろう。ヤスは楽しくて仕方が無かった。釣りに夢中になっていると背中で声がした。