「店長…藤川店長っ!」 パートの片桐響子がテレビのニュース番組に没頭している藤川を叱りつけた。 「店長、もうすぐ閉店の時間ですよ、こんな所で呑気にテレビなんか見てないでレジ金点検お願いします…って店長聞いてます?…もう、ちゃんと来て下さいね。」 「ああ、ごめんごめんちょ…ちょっと待っててくれるかな、必ず行くから」 「早くして下さいよ!今日は彼とデートなんですから…ってもう!」響子の話など聞いてない藤川に念を押すと片桐響子は、ふくれながら店長室を出て行ってしまった。 「あ…あいつが逃げた?」藤川は全身から鳥肌が立ってくるのが分かった。その時だった。 「藤川さん」一人の男が藤川を呼んだ。 「あ…あなたは…ぼ…僕もたった今ニュースで知って…」 「そうなんですよ、今夜のテレビニュースは全てあの『暗闇の女』の事でいっぱいですよ、特番まで組んでるテレビ局もある始末ですよ、既に病院で二人殺しての脱走劇ですからね、我々も一刻を争う事態です。」西村拓朗は少し興奮した面持ちで藤川に近付いた。 「大変申し訳ないのですが…既に黒木志津恵と黒田のり子の自宅には手配済みなんですが、二人とも家にはいなかったんです、野々村順子は あの事件の後、引越しをしているんですね?ここに来れば家がどこかと分かるんじゃないかと思いましてね…一刻を争う事態なもんで私一人単独で動いてるんですよ。」 「は…はい分かりました、す…すぐに分かると思いますんで、ちょ…ちょっと待ってて下さい。」 「お願いします。私は やはりあの時あの女を撃つべきだったんだ今でも あの狂気に満ちた目…忘れる事なんてなかった。裁判で心神耗弱で不起訴になった時、この二人が危険だと分かっていたのに…」西村は裁判の時の あの女の発した言葉を思い出していた。 『ケケケ…私はねぇ 悪くないんだよ…みんな…絶対いつか…殺してやるよ…ヒヒヒ…お前ら…全員…ヒヒヒ…殺してやるよ…ケケケ…覚えておきなっ!ヒィヒヒヒ…!』