「母さん、奈美を家においてくれないか?」
康は、お母さんに言っていた。
その後の話は聞こえなくて、私にはわからなかった。
康…私の事、頼んでくれてるんだ……。
嬉しくて、でも申し訳なくて少し涙が出た。
しばらくすると、康が部屋に戻ってきた。
「あっ、起きたんだね。具合はどう?」
「う、うん。さっきよりは楽かな…」
「そっか。なら良かったよ。」
康の笑顔が愛しい。
さっきの事は、私は知らないフリをした。
「トントン」
部屋のノックがして、康のお母さんの声がした。
「奈美ちゃん? 少しだけお話できないかな?」
「は、はい……」
さっきの話をされるのかと、私はドキドキしていた。
お母さんとまともに話すのは初めてだし、恐そうなイメージ…
「奈美ちゃん、熱あるんだってね。 大丈夫?」
「ハイ、少し横になったら楽になりました…」
康は、黙っていた。
「奈美ちゃん、家出してるんだってね。 さっき、康から聞いたわ。」
やっぱり、その話かぁ……
「家にいるのはいいけど、お母さんやお父さんと連絡は取っているの?」
「……」
私は黙ってしまった。
「落ち着いたら一度、連絡いれなさいね。」
康のお母さんは、そう言って部屋から出て行った。
私にとって、すごく予想外な話だった。 普通は、帰りなさいって言われるハズだから。
「母さん、ここにいていいって。」
黙っていた康が私を見て言った。
「本当にいいのかな……」
でもスゴク嬉しかった。
とりあえず働いて、少しでもお金を入れないと…。
今日から、康うちでの生活がスタートした。