僕は小さい頃虹を見ることが好きだった。
雨上がりあらわれる虹。そして消えていく虹。虹はどことどこをつなぐ橋なのか…。気になって仕方がなかった。
まだ幼かった僕の家の鄰に可愛らしい姉妹が引っ越してきた。姉の美香は僕より5歳年上の10歳。妹の里佳は一つ下の4歳だった。
美香は僕の長い初恋の相手だったのだと思う。
出会ってすぐの頃、いつものように僕は雨上がりの虹を見ていた。そんな僕の横にいつのまにか美香が立っていた。
「何を見ているの?」
そう聞いてきた美香に僕は「虹を見ていたんだ。虹はどことどこをつないでいるんだろうって。あの虹の橋を僕も渡ってみたいなぁって見てたんだ。」
そう言う僕に美香は笑いながら
「あの橋は幸せに人生を頑張った人に神様が天国に行けるように作った橋なんだよ。」
って教えてくれた。僕はあの笑顔に幼い恋心を抱いていたのかもしれない。
あの初恋の日から10年。僕は自分の気持ちを伝えられないまま月日を過ごしてしまった。美香は20歳になっていた。とてもきれいな女性になっていた。まだ15歳の僕にとって手の届かない大人の女性になっていた。もう少し…もう少し僕が大人になれていたら美香に玉砕覚悟の告白をしていたと思う。それなのに…
美香は20歳と言う若さで結婚してしまった。高校時代から付き合っていた一つ年上の男性だった。ウェディングドレスをまとった美香は本当に美しかった。僕は美香より年の若い自分を呪った。僕が美香を幸せにしたかった。愛しい美香は結婚式の後夫婦でハネムーンにむかった。行ってきますと言った美香の笑顔は今までで一番美しかった。
美香が旅立った日…その日は雨が降っていた。僕は家でテレビを見ていた。ボーッと見ていた僕に衝撃が走った。美香が乗った飛行機が墜落したとニュースで流れていた。「生存者は望めない」アナウンサーの声が頭をこだました。 僕は涙を洗い流してもらおうと雨が降っている庭に飛び出して大声で泣いた。
しばらくしていつまでも泣いていてはいけないと諭されるように雨が止んだ。その空には虹がかかっていた。美香はあの虹を渡って天国へむかっているのだろうか?いつかは僕もあの橋を渡れるように…美香に恥ずかしくないように生きていく事を誓った。