―昔の夢をみた
―まだあいつが俺の側にいる頃の…だけど
―あの声も、あの笑顔も、今は記憶の中だけのもの
―あいつにふれることもできない、今……
―あんなのただの悪夢に過ぎない。
―まだ店が開いて間もない頃、病院から抜け出した志保がよく俺の店に遊びにきていた。
「今日はね…プレゼントがあるの。開店祝い!大事に使えよぉ!」
志保が俺にくれたのは水色とピンクのグラス。
「…何でグラス?食器くさるほどあるし。」
「わかってないなぁ。昭久は、こっちの水色のグラスで、私がピンクのグラスなの。あ、これ店に置いといて。私専用のグラスって事で。」
「はぁ?意味わからねぇ。」
「いいの、いいの。おそろいにしたかったんだもん。あ、わったりしたら殺すから。」
志保は上品そうな笑みに似合わない発言をする。
「…じゃあさ」
俺はニヤッと笑って言い返した。
「もし片方のグラスがわれるような事があったら、もう一つも跡形もなく壊すからよ。」
―俺のこの言葉に志保は少し悲しそうな笑みを浮かべた…。
昭久は目を開ける。どうやら眠ってしまっていたようだ。まだ現実と夢の区別がつかず、頭がぼうっとする。
「ん?」
昭久の頭に冷たい感触があった。昭久の、額には冷却シートが貼られていた。 床には、薬局の袋が置かれている。
「…はぁ、あのバカ。」
昭久は、力無く言い放った。
その頃、冷却シートの犯人は、泣きながら家路についていた。
「…志保って誰なんですか?昭久さん…」
―たとえ寝言とはいえ、聞きたくなかった。
好きな人の口から違う女性の名前を。
由香里の目から大粒の涙が流れ落ちる。
―昭久さんの目には
私なんて、映っていない
そんなの解ってた
でもどうして
すごく苦しい
何だかすごく
―…痛む
続く