午前六時―――
夜の気配も消え始める頃―
ガレージの前にたたずむ一つの影があった。
彼は三角(みすみ)京一、三十二歳独身。
普段は優秀な営業マンとして第一線で活躍している。
そんな彼の唯一の趣味、そして心のオアシスとして日頃の憂さを晴らしてくれるのが、このガレージの住人であった。
近隣をはばかり音も立てずに扉を開くと、鈍く光る真紅のボディと、メッキを施された盾のグリルが目に飛び込んでくる。
アルファロメオ・ジュリアクーペ
その最終型となる2リッターモデルである。
「今日も頼むぞ」
京一は小声で囁きかけ、エンジンをスタートした。
キュルルル‥グォンッ!
ガレージをそっと出た後、扉を閉めにおりる。
「だ〜〜れだっ?」
いきなり目隠しをされた瞬間に、本日の作戦失敗を悟らされた。
「由香里ちゃ〜ん、頼むから折角の休みを邪魔しないでくれる?」
京一が冷ややかに云うのを耳にした犯人は、軽く彼の背中をひっぱたくと、一気にまくしたてた。
「何よーっ、一人でコソコソ出掛けようなんて卑怯じゃない! 隣にこ〜んないい女がいるのに声かけてかないなんて信じられないわよ!!」
――彼女は一ノ瀬由香里、二十三歳。ふたつ違いの妹・由紀と共に一年程前に越してきたお隣さん、というだけで別に彼女ではない。
見事に均整のとれたプロポーションも含め、ルックスは確かにAランクだが、性格の方にかなり――問題があった。
わがままマイペース、所謂『女王様タイプ』とゆーヤツである。