紅葉が染まる秋のほんの短い夕暮れ、僕と娘は住んでいる街から離れた田舎をドライブしていた。僕のオンボロのミニクーパーは心地よいエンジン音を響かせて軽快に山道を登っている。
そんな時に彼女は何気なくこの前の誕生日にあげたオモチャの指輪を外して、丸い夕日を指輪の円の中から覗いて
「卵の黄身みたい」
と呟いた。
僕はそんなことを考える彼女の事がおかしくて思わず路肩に車を停めてお腹がよじれるくらい笑った。
そしたら彼女は少し拗ねて口を尖らしながら、
「だってそう見えるの!」と言い訳がましく言っていた。
「はいはい」と取りあえず頷いた。
そして、ふと彼女が眺めていた夕日を自分も眺めてみたくなり填めている結婚指輪を外して夕日を覗いててみた。するとオレンジ色の綺麗な夕日は、指輪を通して見ると確かに卵の黄身に似ていた。
「本当に卵の黄身に見えるね。」
僕が少し驚いてそう言うと、彼女は顔をクシャクシャにして
「ほらね。」と満足げに言った。彼女の顔はほんのりとオレンジ色に染まっていて、僕は自分の娘が段々と美しくなっている事に改めて気付いた。
ミニクーパーは楽しそうに小刻みに揺れている。