おそらくあのときに、
人生のボタンを掛け違えたのだろう。
あのとき、もしも、なぜ、どうしてだ?
もう変えられない現在を憎みながら
小さな単語が書かれたノートに目をやる。
――「イカロス同盟」――
古びてしまったその文字には
懐かしいあの人の温もりが込められていた。
「希成くん?」
声をかけられて振り返ると、
そこには今までに見たことのないような
まるで桜吹雪のなかにいる向日葵のような、
そんな女の人が立っていた。
一目惚れだった。
「急にごめんなさい。少し気になったものだから。」
「…うん?何が?」
「その……。チャックが…。」
…………………。
俺にとって人生最大の恋は
人生最悪な出会い方で幕を開けた。
「よく俺の名前読めましたね。珍しいのに。」
「私の弟が「希介」って言うの。だから「きなり」かな?って。」
ゆかりさんはそう答えた。
新しい高校に入って初日に
初めて声をかけてくださった人だ。
(そして俺が一目惚れした素敵な女性だ!)
同じクラスにはいるが
今までアメリカのボストンにいたらしく
俺より実際学年は一つ上だ。
「希成くんはどうしてこの高校に来たの?」
「あ、親の仕事の都合で引っ越してきて。」
「はぁ。日本国内だからまだ良いじゃない。
私なんか親のせいでアメリカ行って
3日前に帰って来たばかりで
しかも学年一つ落ちちゃったのよ?
昔の友達今ごろ大学決まってるわよ。」
…よーく喋る人だなぁ。
「あ、今うるさいなって思ったでしょ!?!?」
少しムスッとしながら喋っているゆかりさんが
すごく可愛くて思わず見とれた。
…もしかして俺ベタ惚れ?
「ひどいなあ。せっかくお友達になってあげようと
一生懸命喋ってるのに…。」
「え!?うるさいなんて思ってませんよ!
もっと聞かせて下さい!」
するとゆかりさんはくすっと笑った顔で
「長くなるけど良い?」
なんて言って
朝礼が始まるまで
アメリカにいた頃の話をしてくれた。
見た目と中身は全然違うんだな…。
そう思いながら、初めて見る担任の先生の話に半分、
ゆかりさんを見ることに半分神経を使っていた。