景色は変わらなくても歌声だけははっきりと聞こえる
でもいくら目を凝らしても姿が見えない
歌声がやんだ
僕は不安になる
あの歌声がもう聞けなくなるのではないかと…
今まで何度もその不安に押し潰されそうになった
僕はもう肉体の力ではなく彼女に逢いたいという想いの力だけで体を動かしている
待っていればまた歌声は聞こえてくるさ
しかし
次に僕に聞こえてきたのは歌声ではなかった
「ねぇ、私のこと探してくれてるの…?」
驚いて後ろをふりむく
倒れた樹木に少し体勢を崩して彼女が座っていた
逢えたのだ…彼女に
僕は沼の世界の外に彼女がいるのだと考えていたが彼女は僕と同じ世界にいたのだ
彼女は清潔感漂う純白の姿だった…
雪よりも白い肌…
銀色の長い髪…
品の良い顔立ち…
透き通るような優しい瞳で僕をみている…
「そうだよ…ずっと君に逢いたかったんだ…」
見とれてしまったため少し沈黙が生じたが僕は答えた
「私もあなたに逢いたかった…」
驚いた
彼女は何故僕の存在をしっていたのか
目を見開きながら右側だけとなった背中の翼を隠す
純白の翼も、うす汚れていて、彼女の瞳に映したくなかったから