10分前になっても席はガラガラ。
どんだけ人気なぃんだよ…この映画。
「なぁ……。」
「ん?」
「なんでこんな後ろなの?」
ユカリがとった席は最後列のど真ん中。
狭い劇場だから見えにくいってわけじゃないけど……
「どうせこんな空いてんだし、前行かね?」
「ここで良いの。」
ユカリはスクリーンを見つめて言った。
なんかユカリってこんな……自己主張強かったっけ?
その横顔は頑なで……
「なんで?」
「なんでも。」
即答するユカリ。
俺はふと思いついた。
「当ててみせようか。」
眉を上げて俺を見るユカリに顔を寄せ、耳元で囁く。
「ここで、抱いてほしいんだ。」
「あんたはほんとにっ……!!」
ユカリが真っ赤な顔で俺を叩こうとした時、映画が始まった。
眉間にシワを寄せたままスクリーンに顔を向けるユカリ。
すげぇわかりやすいリアクションだな。
いつももっと恥ずかしいことしてんのに。
多分俺達って雰囲気に流されやすいんだ。
あと、デート自体に慣れてないせい―――\r
って、慣れてないのは俺だけか。
一瞬、あの夜のユカリが頭をよぎった。
俺の見たことない笑顔で、俺の知らない男と寄り添うユカリ―――\r
キュッと胸の奥が痛んだ気がして、俺は慌てて映画に集中した。
なんでかわかんないけど、もう―――思い出したくも、ないんだ…………。